風がやむのを待っていた
(無言の幽霊が
(さびしく背骨をとおり過ぎた
目玉をこわばらせた虫たちが
つぎつぎ枝から落ちていって
老いた蟻地獄の砂、
ひとつぶ、縁側にはじかれ光った
(外国のたばこは疾うにシけ
(ときおり、海のにおいがする。
声が鼻腔でゆっくりまがり
暮れの音鋸《おとのこ》みたくウンと鳴っても
くろい土に落ちた
俺の指はつめたくって
死骸を運ぶ仕事なら
このサンキューも運んでくれな
蜜柑の若木のそばに
ぽっかりあいたタイムマシンの穴
に、投げやりになって突っ込んだサヨナラが
まだ帰ってこないから
俺は引き出しや押し入れを開けては
なにを探してるか、わからなくなって、
わからなくって、、
ひとり敷居で
あしを突っかいて爪剥いで
そのとき一瞬ふすまの奥で
置いてきたものが光る
蟻の背な、
定刻表、
きっともう
帰らないでも
数えなきゃ覚えてもいられない
憎んだ数、
許した数、
また憎んだ数。
(プルタブ、
(電熱線、
(烏の羽。
終わらない橙の空想へ
二本の箸で出来合いの橋をかけ
ちいさくなって夢をわたるさ
(あそこの雲は
(昨日たべた魚の墓か、
夕暮れ溜め込んだ風鈴が
とうとう切ない声で泣いたよ。
心臓にキンとひびの入るような、
泣いたよいちどだけ、ああ。
- 洗剤イヤ子
- 2014/08/25 (Mon) 22:38:47