キリ/サク
霧が立ち込める舗装された道
柵が道の脇をどこまでも塞いでいる
細長い檻の中を走っている気分
柵の先はどこまでも草原
草の剣先に水滴がついて
風が吹くたびにキリキリと流れ
透明の花が咲く
切り株になってしまった
桜が咲くことはない
切り刻んだ屑を固めて燃やし
煙で肉を燻した
野山を駆け回った足の肉は
腸の皮の中で桜色に染まる
切り株は死
肉塊は死
だがそこに在り続ける
死んでも簡単には消えてなくならない
キリキリと弓を引き絞りながら
歩く足元でサクサクと落ち葉が鳴るので
獲物がどんどん逃げて行ってしまう
草食動物は耳が良く身が軽い
お尻の残像を感じ取ったときに
手を放しても
矢尻は落ち葉を叩くだけ
狩りから稲作へ
替え時は今なのかもしれない
錆びた鉄がキリキリこすれて
ハンドルを回す手に振動が伝わる
四角い氷がぐるぐる回されて
ガラスのお椀に氷片を盛る
スプーンを突き刺すたびに
サクッサクッと音がする
雪山でストックを斜面に刺す時のように
涼しい音が目の前で口の中でサクサク響く
切り立った崖の上から
錯乱した男が叫びながら
海へと落ちていった
一言目を叫ぶ途中で
波に飲まれてしまったので
何を言いたかったのか知る者はいない
重力は強く一生は短い
言いたいことは端的に
それが教訓となった
- a man
- 2015/03/25 (Wed) 22:49:13