海辺であの子を溶かしたら潮色になった。
シャイなあの子はずるずると巻き貝の中でかくれんぼ
海の鳴き声が
時おり、貝から聴こえてくる
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フードを深く被った男が
永遠に続くだろう隊道を歩いている
鳴き声が響き、どこから聴こえるのか
男はもはや出どころを探してもいなかった。
風の吹かぬ隊道で、
コツゥーン コツゥーン・・……
最も、朝から遠い所にいた。
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誰よりも君のことを溶かしたくなかったのに
君は自然(ひとりで)に溶けていった
春の託された雪のように
僕を夜に残して空に溶けていった。
もの思う街灯が身動きできぬままに
目の前で溶けていった
書き置きの朝の手紙
雨に濡れた犬を残していった
君のことを思うがままにうつむいた
「笑えるだろう。あの街灯。」と見知らぬ酔っぱらい
「下ばかり見て、空を向くことさえできないのだ。」
犬は今日も僕に小便をにかける。
「街灯のくせしてもっと明るく輝いたらどうなんだ。」 町長が街灯にいった。
「けれども、これが僕の精一杯なんです。僕は犬に小便を引っかけられて、自慢のメッキも剥がれてしまいました。どうか、町長さん。お願いします。せめても、メッキで僕をピカピカにしてください。夜に輝けないなら、朝に輝きたいのです。」
朝の空も知らない街灯が昼間に役にたつはずないじゃないか。だいたい、お前は夜に役にたつはずじゃないか。町長はもう話したくないといわんばかりにスタスタ歩いていってしまった。
街灯はさらにうつむいた。
僕の中にはどうやら、
顔を見せない男がいる。
そいつがいるから、
僕はいついつも、うつむいているのだろう。
嵐の夜に、強い風が吹く夜に
街灯は決心をした。
ポタポタと頭のつばから落ちる雨が
昔見た、涙のようで
少し、街灯を悲しくさせた。
翌朝、朝帰りの酔っぱらいが、
ポッキリおれて、倒れていた街灯をみつけた。
街灯は空を向いていた。
混線する意識のなか
まどろむ視界のなか
なんとまぁ、僕は役にたたない場所なんだろう
これが空というものか
夜になると、この空いっぱいに星や月が輝くのか
そんなに、輝くものがいっぱいあるのに
僕は生まれてこなきゃよかったかな
あの、男はどうしたろう。
せめて、犬をつれていけよ。
空は広いんだろう。
手紙の匂いを嗅がせたらいい……
街灯の意識はそこで途絶えてしまいました。
- サンバ海猫
- 2016/02/15 (Mon) 23:04:29