即興ゴルコンダ（仮）

で、よろしくお願いいたします。

門は開かれ
地下二階へ通じる。
オムが帰って来て
苺のショートケーキと
団子を食べる
鍋に水を入れ忘れ
底の裏側を
少し焦げ付かせてしまう
足の指にも転移して来る様な
ハートストリングスに触れて来る様な
出来事で
ケーキも団子も忘れて仕舞った
GATEは門で
B2はBasement（地下）2階と
教えられたオムは
海で立ち往生したくなる様な
気分だった
土筆が生えて居る丘で
石が飛んで来ても
今ならよけられそうな気がする

全ての道が通じている場所があるはずだった
青看板の行列が覆い尽くしているのが空だぜ
ローマからは遠い音階がヨナ抜きの国で
随分と言葉がリズムに乗るようになったもんだ

俺は嫁が怒るかもしれない皮肉交じりの冗談を
鼻腔に納めて隠し持っていたわけでは無い
一本だけと言われて余ったライターのように
花粉の舞う季節に鼻紙と共に捨てたかっただけ

全ての門が通じている場所もあるのだろうか
風景が切り取られているうちはそうかも知れないよな
TR-808 Hi-hatが刻んでいる
その間に潜んでいる無音の空間のことだからな

欠航の可能性を予め並べ立てられてしまう風習に感化されて
俺もつい弁明の先手を打ちそうになる
門はくぐり抜けた後は無名であるから
間違っていたら謝ればいいだけだろ

遠くから地響き
かすかにここまで聴こえる
春の立ちあがる音
それを合図にゆっくりと
夢から浮上する

地下一階の
いっぴき分の空洞で
壁を蹴り伸びをする

地上に出る前に
床に穴を掘る
そこから
さまざまなものを捨てる
こっそり食べた木の実の食べかすや
夢見の悪かった記憶なんかを

いやなものは春にはもちこさないものさ

ぽんぽん、と穴を閉じて
いよいよ動き出す
新しい春だ
春はいつだって、新しい

地下街の
地下貝違う！（怒）
Ｂ２出口前だ
間違えるな！（怒）
鬼軍曹の先輩の
赤い顔がどす黒く
酒焼けしているよ
怖いね
こっそりＡ4出口から
逃げようか
口だけじゃ無いよ
奴さん本気だよと
弱気の後輩を嬲る
これで今夜も終わりだな
明日の朝は彼は一番出勤
にこにこしているんだからね
弱気の先輩を鬼にするお酒
怖いね
本気にした後輩には済まぬと
バーボンを１本プレゼント
旨いかどうかは知らないが
飲めた方が強気になれるよ
俺は酒を飲まないから
いつでも不機嫌だ
だから友達も無く
Ｂ１出口からこっそりと
抜けていくんだ三日月が
見えた！

病院の構造を知っているかい
そこの総合病院だよ
風邪をひいても事故にあっても
子供ができてもとりあえず何でも
みんなが行く病院さ
想像してごらん
あの建物は７階建てさ
７というのは良い数字だね、孤独でありながら空に架かる橋と同じ階数でもある
７階は長期入院の精神病患者のフロア
病院もお客様商売だからね、見せたくないもの、逃亡の恐れのあるものは奥に隠す
６階は長期入院の身動きとれないタイプ
ま、妥当なところ、うっかり上の階に行かないし行けないし
５階は入院でも短期
子供を産んだ、とか、頭を打った、とか、１週間もいない
４階は事務室や検査室、職員用の保育所とかもここかな
数字として好まれないからね
３階は病室、だね、怪我ではなくて病気
２階は売店などでもいいんじゃないかな
１階は受付と診察室、待合室
ま、基本だね
では、ここから、地下１階は手術室、救急で運ばれてきてすぐに対応できるように
GATE-B1は救急車の直接横付けできるルートのことだよ
さて
地下２階はもう一つの出口だよ、GATE-B2はまだくぐりたくないね
天国の門は地下にある、って、それだけの話さ

わたしはその男の話を微笑みながら聞く
そうですね、そうなんですか、と相槌を打ちながら
あの建物は、そもそも病院ではないし、地下２階なんて存在しない。