もと居たところ
これでお願いいたします。

著者 井亀あおい,葦書房,1978年刊の詩集タイトルをパクリました。

  • aoba_3k
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  • 2016/04/22 (Fri) 21:47:25
もと居たところ
一枚の写真を眺めると
緊張した面持ちの5人家族。

着物を着た末娘が
口をへの字にしてこちらを見つめている。

(少しでも良いから笑えばよかったのに。)
20年後
写真を手帳にしまいながら
仏頂面の長女はため息をついた。

部屋の掃除をしていると
何処からかありがとう。の一言が聞こえるようで
より一層畳を磨く。

そこにいるはずの親父に笑って欲しくて
長女は仏間の花を
丁寧に飾り付けた。

いつも通りのことをしていると
ふすまの向こう側で茶をすすり
新聞のテレビ欄とにらめっこをする親父が
大きな声で呼んでいる気がするのだ。

そろそろお茶にしよう。と
どら焼きを一つ差し出して
「あづさ」と描かれた湯飲みに煎茶を注ぎながら。
  • 梓ゆい
  • 2016/04/23 (Sat) 02:57:36
もと居たところ
生きている この世界に

生きていた あの世界に

ああ
なつかしいな
西暦があった世界の2000年頃に
私のバリエーションが詩を書いていた
おそらくそんな世界があった
それは確率論から導かれるお話だ
「西暦」という暦
「暦」という概念
「2000」という自然数
「年」という単位
それらの存在を掛け合わせた世界
それを「なつかしむ」私がいる世界

私は私の存在確率が0に漸近する中
生きてきた
バリエーションは皆死んでしまった
人間が二人生きている確率は
一人が生きている確率よりもずっと低い
そんな事情で
次のインフレーションを待つまでの間
もはや一人で居るしかなかった

独学でバリエーションの精神を統合する術も学んだ
「独居房」では「幻覚」を「見る」のだという
そんな世界もあったな
それでも私は私の知れることしか知れなかった
そう思うと宇宙の時間は長いようで短かったな
ああ
「なつかしい」な
あの「新緑」の「匂い」があった頃って
  • たかは
  • 2016/04/23 (Sat) 10:12:40
もと居たところ
Ⅰ(都会っ子の森)

あの森は
カブトムシでいっぱいの
約束の森
僕は
空飛ぶ円盤みたいな麦藁帽子被って
マムシや山姥を恐れながらも
なぜか藪蚊のことは忘れてしまっている

突然、
お姉さんが現われた

……もう二度と、
  ここへ来てはいけませんよ

若い叔父さんが見せてくれた
なんだかよく分かんない漫画ん中の
お姉さん
谷川にしゃがんで
白い尻から
紅い花!

──尻から花を咲かせんだったら、
  黄色い花なんじゃないのかな?


Ⅱ(もやしっ子の宇宙)

例えば、
水のない惑星を生き延び
罅割れた粘土質の肌になって帰ってきた
ジャミラ

土星探査中
特殊な宇宙線を浴び体が溶解し始めた
スティーヴ

あの時代
宇宙からの帰還には
常にある種の不穏さがただよっていた

そして出発前キスして別れた
恋人たちの不実があった

だがしかしあれは、有機的宇宙だ
火の鳥が翔ぶ、宇宙だ

最新の宇宙ではもう
僕たちはくしゃみさえしない
  • 安藤紅一
  • 2016/04/23 (Sat) 20:21:57

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