琥珀の鳥
早速ですが、このお題で宜しくお願い申し上げます。

  • 竹森
  • 2017/01/02 (Mon) 18:15:14
琥珀の鳥
琥珀の中の鳥が羽ばたく
そんな幻想の中
化石の発掘は続いた
土筆が突然
がおがおと吠えだしたり
塩が大地にまかれる
そんな幻想の中
地層の探査は続いた
私はタイガードラマの中で
基地が建設されるのを幻視しながら
じめじめとした日本の環境を憎み
それでも化石の発掘を続ける
琥珀の中に眠る
完全体の古代の鳥を発掘して
高値で売るために
  • ぎわら
  • 2017/01/03 (Tue) 03:33:22
琥珀の鳥
なんにも言うことがなくなってしまった日に
絵を描こう
言葉のかわりではなく
色やかたちのかわりとして
なんにも言うことがなくなってしまった日に
歌を歌おう
わたしの友達がそのまた友達のために作ったけれど
その人はもういないからと言ってかわりにわたしに聴かせてくれた歌のように
そしていつのまにか覚えてしまったその歌のように

風が間違ったトンネルをくぐり抜けるとき
ひっかいた壁のレンガにカリカリと音が鳴った
しだの葉がふるえ
縦にすえつけられた排水管は錆びてぼろぼろ崩れ
あとには排水管をとめる金具のようなものだけが残った
そのトンネルはわたしの食道なのだと思った
だから今そういう絵を描いている

純粋な空に
鳥のはねが引っかかっている
引っかかる場所なんてどこにもないのに
きみはどうして
そんなことをしたのだろう
  夢はとても寡黙だった
  なにも言えないよ
  だってきみがぜんぶ予言するんだもの
もしきみが饒舌だったら
その歌をわたしが聴くことはなかったかもしれない
わたしではなく
きみの本当の友達に届くはずだったかもしれない
その歌が
だんだん消えていって
いくつもの確率
いくつもの分岐
あまりに粘度の高まったこの空を
飛びにくそうに飛ぶ鳥がいる
冬の海ってどんなだろう
くらげの家を見にいく
あたたかなペットボトルを握りしめて

生きる
生きる
生きる
わたしたちは
それを好むと好まざるとに関わらず
知ると知らざるとに関わらず
なぜ
わたしたちは生きているなんて言うのだろう
なぜわたしたちはそんな分かりきったことをなんどもなんども口にするのだろう

きみの
歌はかなり長く
30番まであって
26番まで歌ってから「もう歌えない」と言った
じゃあもう歌わなくていいよと言って紅茶でも入れてあげればよかったのに
そのときわたしは
とても馬鹿なことを言ってきみを失望させてしまった
だからわたしの喉には
いつまでも間違った風が吹く
間違った風がトンネルを抜けていく

大晦日の朝
わたしは
とつぜんまた絵を描きたくなって
絵を探して
ずっとずっと野道を歩いた
誰もいない林のなかの切り株に座り
野生のキャベツからぽろぽろとこぼれる
ちいさな光を爪で弾いたら
からだがなんだか熱をもった
足もとに
猪のふんが落ちていて
わたしはそれを石で割って匂いをかいだ
あまった季節が日々をはみ出して
無口なりに
なにか伝えようとしていたことがうれしかった

今日は一年でいちばんしずかな日
ああ
耳をすませて
きみの
歌がどこからか聞こえてこないかとわたしは思った
世界が
こんなにも澄んでいる世界が
明日には
人々の祈りや願いや希望でひどく濁ってしまうのなら
世界は一年をかけてまたそれを浄化していくのだろう
夢のなかでしか知れない
自分たちのほんとうの願いを過去に置き去りにしたまま
人々は明日
うその願いごとを言いあって眠るのだろう

花占いのように
はねをまき散らして
鳥が飛んでいく
好き、嫌い、好き、嫌い
わたしは絵を描く
ひとつひとつのはねを一瞬のなかに閉じこめる
ため池のいちばん底に
動物の骨が沈んでいる
きみが歌っている場所
きみがその人のために歌おうとした人のいる場所
ゆっくりと羽ばたく
好きなものも嫌いなものも多すぎたきみが
好きなものも嫌いなものもひとつもなくなって
もうなんにも言うことがなくなってしまったら
ぼろぼろになったはねの
きみの歌が聴こえる
水のそばで燃える炎たち
のことを歌っている

自分たちのほんとうの願いがもし知れたら
それはどんなに幸福で苦しいかな
わたしはそのとき
すごく長い夢のなかで
ずれた眼鏡を戻そうとする
きみのうつむいたまぶたのところをなんども描きなおそうとしていた
  • s.
  • 2017/01/03 (Tue) 04:17:30

返信フォーム






プレビュー (投稿前に内容を確認)