「焼けて潰れたミーのカー はめてもう一度ユーのキー」
あまさらさん
<思考にエコーがかかった状態で / 過子の話を聞いた>
ひとつめの思考の残響が、ふたつめの思考を外へおしながしてゆき
さざ波のように浜辺に潮を満たして、やがて引いてゆく。
<過子は手を話して岬の先端に立ち、手すりに寄りかかる>
<「おちないよ」と言って笑った。>
過子 / 過去はおちないのだ。毎秒ごとに過去のファイルは保存され
あたらしいファイルが上に積み重なってゆくように。
過子はいつでも過去の上に立ち、岬の先端よりも、もっと高く
風のきびしいところへ昇ってゆく。
kyouhei tanakaさん
<鉛筆の頭頂部分を嚙みながら>
これから書くことへの煩悶が、すでにこの書き出しから
ひとつの仕草に変換された状態で描写されています。
入れ子状の形態が、やがて場面を宇宙に飛躍させSF的な描写に。
<私の腕時計が明滅し、ぴぴーっ、エラーを警告する。 / そして小さな電流を流すのだ。>
ずっとさきの未来に、もしも悲しみがただの小さなエラーとして処理されていたらと思うと
日常で感じる悲しみも忘れたり捨てたりせずに、慰撫してあげたい気持ちになります。
白さん
大きな川を中心に俯瞰した全体のなかで
こまごまと生きている人々の生活や自然やしょくぶつ。
一枚の風景画にどんどん近寄って細部にまで目を届かせているような気持ちになります。
<君は全部海に撒いてくれと言ったけれど>
散骨の方法にもいるいろあるけど自分だったらどうしてほしいかなと考える。
やっぱり墓地にいれてもらいたいなぁと思う。
花火が打ち上がる季節にでもだれか会いに来てくれたらうれしい。
きっと、海に撒いてと言った「君」は
ひとりで発つことを恐れないとても強い人なんだと思いました。
紅茶くん
今回の参加作品のほとんどは映像的な時間の流れかたをしていますが
この作品はとりわけ写真に近い時間の切り取り方をしていると思いました。
しかし映画のエンドロールが流れ切ったあとの余韻に似た時間も含んでいますね。
ワンシーンの時間の長さを例えたらVine動画ぐらい。
<それを見ているものは誰もいない>
もしかしたら、なんですが「誰も見ていない」ってもっとも美しいかもしれません。
こうやっている今も、どこかに誰も見ていない水の動きや光の反射
または誰も見ていない美術館に飾られている絵画とかがあるのかと思うと
ちょっと気持ちが昂ります。
さわ田マヨネさん
花火が天に昇ってゆくすがたは神龍のようだ。
ひとつの願いが叶えられて散り散りに飛んでゆくドラゴンボールは花火のようだ。
そうか、龍って卵から孵る生き物なんだ。
ヨード卵から孵った手のひらサイズのドラゴンが
部屋の中をゆらゆら飛んでいるすがたを想像したりして
楽しむことができた作品でした。
阿ト理恵さん
言葉を扱って楽しむことを知る人がつくる作品だと思いました。
<さざんかがちりはじめ気をつけながらきみに火をつける>
<ふみしめてふみはずさず踏み込み踏み越える>
このような、短歌からの応用が配置され
小気味よさを端々に感じます。
いちばん技が光っていた作品です。
- sample
- 2017/03/27 (Mon) 03:10:44