何もない所に川が流れ始める。そして歌が始まる。そして。そこに群がる地中よりいでし地底人達がゴーグルを外して、川の水面に映る月の光に当てられて、長く発達した爪を夜空に伸ばせば、サイリウムのように虹色に光った月の光が川のステージに向かってゆらゆらと揺れている。川の上から流れてくる野菜や果物達は大きなハスの葉に乗っており、その上で手足をはやしながらそれぞれダンスを踊っている。そのさまはまるでパレードで、裸電球をつけた大根の足は短くて、立てないので転がっているだけだった。それをみて地底人達は多いに喜んだ。大根が食べられるものであることは知っていたし、そんな大根が歩けないでもがいているのがとても見ていて楽しかったのだった。
そんなパレードが延々と続いていると、今度は地底人達が自分の爪を切り始めて、川で泳ぐ事に決めた。川の流れは激しいので、次々地底人達は溺れて死んでしまったが、そういう一生もいいもんだと、不思議と後悔はないようだった。自分の脳裏に流れるDeath by Glamourは水の中に溺れていく自分の気泡の暖かさと土臭さと、美しさを彩る虹色の月の光を吸い込んでいた。死は恐ろしいものではなく、時が来たら死にゆくものであり、時が来たらこうしてヘンテコなパレードを見ながら始めての水の中で溺れていくのが、地底人達の一生だった。そういう事を知らない人間達は、荒れ果てた乾燥地に水が流れ、川ができる度に耕作を開始して生にしがみつくと同時に、もう少しで死にそうなった命を食いつなごうとする。そういう文化的な理解の差が使者と生者のまじわる、川のパレーどは、荒地に恵みと流転の死をもたらす。そういう事があることをこれを読んでいるあなたは、今始めてしったのかもしれない。
- あまさら
- 2017/07/27 (Thu) 18:46:41