その木は、ただそこに在り続けただけなのだろうけれど
飛行機に乗り車を走らせ坂道と石段を登って見に行きたかった
その為に時間を作り、だから、それはその為だけの時間だったけれど
待ち構えていたかのように、長崎は雨だった
傘を差さずに、葉を打つ音を聴きながら
祈りたかった
その木は、ただそこに居続けただけなのだろうけれど
天からの火にも人為の火にも耐えた木ならば
きっと意味はあるだろうと
ただ、静かな境内でその木の謂れの古びた看板を眺めて
私は何をしたかったのだろうか
何を期待していたのか
携帯電話の鳴る音に、祈る時間すら奪われて
空港でカステラを買う
故郷への飛行機はない
カステラは私には甘すぎるけれど
試食をする時間ばかりは頼まなくても与えられて
じっくりと味わえばじっくりと甘さが沁みてくる
帰ったら、手土産にカステラをと思っていたけれど
あなたはもう、待っていないのだろう
その国はもう、亡びてしまった。
- 白
- 2017/08/05 (Sat) 11:10:24