ジョンが前の家に行こう、って言って、なんで、って僕は言ったんだけど、だってロビンのお墓があそこにあるんだよ、取りに行かなきゃ、ってジョンは言うから、ジョン、ロビンはね、煙になったんだよ、だからあの灰はボイラーの中でいろんな他の犬といっしょに焼かれてしまったんだから、あれは記念みたいなもんなんだよ、ロビンはもう形がないんだ、って僕は言ったら、だったらやっぱり、前の家に行かなきゃ、記念を取りかえさなきゃいけないよ、ってジョンは言ったから、僕はもうディナーも終わって、そろそろジョンの算数の宿題を見てから、寝かせなきゃいけない、ということを考えながら、リビングの時計をチラッと見て、ジョンを見ると、ジョンはまっすぐ僕を見ている、わかったよ、行こう、と僕が言ったから、いますぐ?とジョンが言うから、そうだよ、って言ったら、だったらスニーカーを履かなきゃ、とジョンは言った。
前の家を離れて、たぶん4ヶ月くらいだね、とジョンに言うと、そっか、と言って、助手席から足をパタパタさせながらウィンドウの外の世界を覗き込んでいる、だんだんと見慣れた、そしてどこかそれと違っている風景が現れて、路面電車の駅を越えてすぐのところ、前の家があった。
家の電気は点いているが、とても静かだ、ジョンの手を引いて、玄関をぐるりと見て回る、大丈夫かな、とジョンが言ったから、イージー、と僕は言ってなんの意味もないような低い塀を跨いで、玄関の横から車引きの方に回って、庭に出る、円形の花壇の向こう側の、世界から集めた凶悪でケバケバしい色のした雑草の生い茂った、奥の囲いに来た。
ロビンは、と言うか、ロビンの骨とあとよくわからない燃えカスの入ったカプセルは、この囲いにあるはずだった。
ジョンは片手でもつ小さなスコップ、僕は塹壕でも掘るようなスコップを振るって、土を掘り返していると、すぐそれは見つかった。
そのカプセルは、プラスチック製のディスクになっていて、土まみれのそれをすこし払って、ちょっと開けようとして、ジョンはやめた。
家に帰る途中、ジョンはずっと黙りこくっていた、ディスクをとても丁寧に膝の上において、じっと前の方を見ていた。
今の家の庭の奥の方、レモンの木が植わった後ろに、僕たちは今のお墓を作ってあげて、僕が点けた煙草をそこにさすと、煙が奇妙に薄明るい月に向かって流れて、ひとしきりそれを見ていたジョンは、いきなり泣き出した、だって、家族なんだから、と泣きじゃくりながら、言った。
僕は言った、そうだね、僕は大事なことを忘れてたね、ロビンは、もう、どこにもいない、けどね、ロビンが消滅したわけじゃないんだ、ぜんぜんまるっきりなくなっちゃった、っていうわけでもないんだ、ロビンはジョンがロビンのことを思い出せば、ロビンは、それはどこかわからないけど、いるんだから、だってなかったら、思い出せもしないからだからね、僕はこんなものなんて要らないと思ってたんだ、だけど、違ったね、ごめんね、ジョン、ロビンはもうどこにもいない、だけどロビンのお墓はちゃんとここにあるからね、もっと、ロビンのことを思い出そう、ちゃんと存在した、ということを、確認し合おう、そうだね、きっとロビンのことを愛しているとき、きみもロビンに愛されているんだよ。
ジョンはそのあとすぐ眠ってしまった、算数の宿題はけっきょくやっていないし、ほっぺたには泥がこびりついている、けれど、きっと、ジョンは今日、自分で何かを学んだと思うから、このまま眠らせよう、夢の平原ではきっと青々とした光景が広がっていて、そこにロビンが逃げていってしまったのだから、それを、つかまえにいきな、ジョン、そのために、今はおやすみ、ジョン。
- こうちゃくん
- 2017/10/05 (Thu) 21:34:37