ある朝、登校すると、上履きのうえに封筒が載っていた。手に取り裏返してみると、とても軽い。なのに、紙数が何枚もあるかのように厚い。むむぅ。普通、こういったパターンだと、ラブレターと相場は決まっているが。それなら封はハートのシールであるべきだが、几帳面に両面テープでとじられているようだった。これは面妖な。もちろん先方に心当たりはない。それなら返報のしようもない。のだろうか、とにかく、これは文面を読まねばどうしようもない。ペリっと三角形を剥がそうとしたその瞬間、安藤がおいぃーっすとかすごく遠くから俺を呼んだので、素早くズボンのポッケにねじこんだ。
一時間目の倫理の授業で、今にも天国からお迎えがきて聖人として崇め奉れそうな元気のない先生が、教科書と顔面を接着させたのを見届けてから、俺は封筒をなるべく音のしないように開いた。そこには7、8枚の便箋らしきものがあり、ずいぶん多いな、とも思ったが、最初の一枚以外は、どうやらなにも書かれていないようだった。曰く「レンコンの戦闘は健康の言動で、怨念の根源は屯田の本命だ」全く意味をなしていないのである。俺はたばかられたのである。俺は思わず手紙を丸めた。安藤が何故かその音を聞きつけて、斜め一つ前から、こちらを振り向いた。バカめ。俺は丸めた紙を安藤に投げつけた。
安藤が、「パイプの俳句はライフのダイブ。体育の街区はマイクのタイプ」と休み時間中にずっと言ってくるのでこいつ頭おかしいんじゃねえのかと思っていたら、お前の始めたことだろと言いだす。ついにこいつもモノホンになっちまったかと思っていたが、ほらこれ、と安藤が渡してきたのはさっきの詐欺漢からの丸まった手紙であった。見てみろよと安藤から渡され、開こうとしていたら、古文のヒラコーがやってきたのでそのまま沙汰止みになった。
そういえばと思ってさっきの安藤から返してもらった紙を開くと、なんのことはないただの白紙である。うつけめ。安藤は確信犯である。とその時は思った。このまま全て葬ろう。安藤ごと。と思いそのままバッグのなかに入れた。
4時間目は、神部先生の数学の授業。が終わり。昼休みを挟んで5時間目、世界史が始まったころ、やれやれとバッグに手を入れると、見知らぬ紙があったので引き出してみると、そこには「通り魔同士は氷が好餌だ。箒はもうした。どうした。コージは?」と書かれていた。安藤のやつ。俺は怒った。
しかし状況が想定とは少々違ったようだ。その紙を突きつけ、バカヤロウお前コノヤロウおおい安藤と突っかかったが、何だーとか言ってジタバタするだけで話にならない、だからこれを見ろ!と突きつけると、へっ、と本当に空白の表情をして、真っ白じゃん、と俺に言うからふざけんなよお前コノヤロウバカヤロウおまえヤロウコノヤロウと言おうとしたら、その紙が安藤にひったくられ、目の前に突きつけられ、そこにはなにも書かれていなかった。へっ、と本当に俺は空白になった。えっ、と安藤も空白になっていたところ、担任のマロニエが入ってきて、おおい席につけ〜と言った。
どういうことだろうか。俺は全く混乱しながら。バッグの中にあるもう三枚を引き出してみる、すると最初の紙は白紙だったが、次の紙には「乱暴な関東は賛同の乱交の担当の感動。」と書かれていた。これはそもそも白紙ではなかったのか。俺はますます混乱する。最後の紙には何も書かれていない。最初の紙に戻る。白紙。次の紙には「山峰の暖房は漢方の反動。甘い高いヤバい粗い葉巻」これはさっきと書かれていることが違うではないか。「サル在るハグ○卓抜カクタス」「ああまだかなカタカナ様々だからな頭はカラカラ傍から逆さま甘辛バナナ」「ロリコンはオリオン座 光る磨く視覚違う自分気分詩文私憤」と次々と文字が上書きされていった。
チャイムがなると、それはだんだん白紙に戻った。ひとびとはそれぞれの場所に向かう。俺は最後の紙を引っぱりだすとと、一目散に安藤の肩をつかんで、おい、と言うと、安藤が「9時、氏、牛、無事、無理、不義、スリ、釣り」とニヤニヤしながら言ったので、俺はそのまま安藤の肩を放した。安藤はそのまま「月、筋、蕗、と教室を出て行く。俺はそのまま席に戻る。「終わりは怖い。永久に誤解、誤解誤解誤解終わり終わり終わり怖い永久に終わり怖い永久に
おい!と言われてハッと気づくと、安藤がなんで突っ込まへんねーんとおちゃらけている、お前、これを見ろ、とその紙を突きつけたら、だから白紙じゃん、と安藤が言った。意味わかんねーしとにかく家きてフリースタイルダンジョンの録画見ようぜって安藤が笑っている。俺は完全に空白になったが、お、おうと言って、もういちど白紙を見た。
- 紅茶太郎
- 2018/01/17 (Wed) 21:59:11