ガラス張りの大きな窓と
コンクリ―の壁だけでできた崖の上の部屋に
あふれる光と焙煎したての豆の匂い
首の細い水差しに熱湯を移し
濾過紙を円錐形に開く
雑味は排除するための 紙のざらつきを
たしかめる貴女の指が 白い
ドリップとサーバーに湯を入れ
そして湯を捨てる貴女の爪先の青いマニキュア
ひきたての珈琲豆をペーパードリップの中央にセットし
豆の中心を目指して湯を そっと注ぐ
豆粉が湯を受けて 円く膨らむと 同時に香り立つ
三十秒
抽出されると同時に何の思いも抽出できないほどの
芳香
ただ遠くで鶯が 水音のように鳴いた
耐熱ガラスに満ちている珈琲をカップに注ぐ
貴女の爪半月には マニキュアがない
初々しい乙女色の爪に注がれた珈琲の静けさ
ゆっくりと香りを飲み そっと ふたりで外に出る
外はいつのまにか 太陽が溢れ
来るときとは比べられないほどの花の萌える匂い
一気に蕾が開花している
貴女はスプリングコートを ひるがえし
桜色の爪で行き先を指さす
まるで 水底のような春霞の中に 宝物があるかのように
- るるりら
- 2018/03/27 (Tue) 17:12:51