旅に出よう
知らないところへいこう
なぜかって
それはなぜかって
イヤホンを外したら違う世界だ
○
音楽はポータブル
プレイリストは日々変化する
電車の中
耳を覆って眼を瞑ってる
きっとこのまま
旅には出られないまま
揺られながら揺れているだけで
知っていることだけに気をとられて
緊張から弛緩 安定から不安定
ドミナントがトニックと手を繋ぐまで
四つ目のコードが眼を開けたり閉じたりしながら
それを見守っている
鼓動を軽く飛び越えるリズム
タイトなドラムスが小節の最後で遊んで液体になる
そこへ滑り込んでいくピアノの伴奏と
ギターの弦から放たれる一つ一つの音程が
右から左から重なりあい
調和した不協和音となっては解決されていく
物語よりも物語る泡がある
それが弾けて一瞬だけ死ぬような感覚を覚える
その意識ですらどこか深いところで反響する
繰り返す
○
イヤホンを外したら違う世界のようだった
いらしゃーせの声に倍音を感じた
生活の音は溢れてはこぼれていったが
音にならないことが多すぎて
だからいつも音はきれいに思えた
空気が振動した
イヤホンを外したら違う世界だ
さっきまで耳元で流れていた曲は
もうぼくの口元まで出てきていた
知らないところへいこう
旅に出よう
アルペジオが鳴り止まないうちに
音にならないこととか
ここにはないこととか
を探しにいこう
なぜかって
それはなぜかって
イヤホンには世界を変える力があったから
○
線路はどこまでも続いていた気がした
ぼくらはそのリズムにものって自分のリズムで
少しずつずれたアルペジオだった
- はさみ
- 2018/05/19 (Sat) 14:15:53