最近知り合ったシンガーソングライターの友達が
一緒にセッションしようと言うので
俺は人生で初めてライブの出演に向かった
ライブハウスは文字通り小さな箱で
自分の番までは観客と変わらなくて
あ、ブ男が出てきた
「私はこのたびオーディションに合格しまして、その報酬というか、特典として、ここでライブをする権利をいただきました。えーそれでですね、オーディションに合格したわけなんですけれども、その特典として、えーオリジナル曲を作っていただいて、現在演劇やアナウンスなどのレッスンを受けていまして」
気づいたら
ブ男が足で不器用なステップを刻みながら軽快な曲を歌っていた
調子が外れた声音をききながら
心がどこかに飛んで
「かかってこおおおおおいやあ」
と女が叫んで
はっと引き戻されるのが現実っていうかむしろ夢の中だった
どこにでもいるような冴えない俺らがどこにもない冴えない音楽をやっているのが
馬鹿みたいに素敵じゃんかなあ
ただ素敵なだけで終わっていく時間が美しいといえばそうなんじゃないかな
こいつらに任せておけば世界は大丈夫だって気持ちにもなり
だけどそんな夢見心地な雰囲気に毒を垂らし入れたくもなり
心はどこかに飛んだ
「みなさんそれぞれ良い曲をお持ちのようですけれど
それはさておき皆さんは
あしたもステージの上みたいに振る舞えますか
あと 俺が小さい頃
母親に包丁を
向けられた時の気持ちがわかりますか
皆さんはあしたも変わらないでいてくれるんですか」
白昼夢をみた
俺は名前を呼ばれて
ステージに上って
証明の強い光に当たり
拍手で迎えられて
あとは一生懸命ギターに合わせて
ボイスパーカッションを披露した
あいつらみんながみんな
こんな感じだったんだろう
多分ずっと昔から
こうするしかなかったんだっていう気持ち
どっちなんだろう
現実とか日常とか俺らが呼んでるものと
今たしかに感じるこんな感覚は
本当に本当なのはどっちなんだろ
何にせよ俺は拍手の中でお辞儀を一つして
ステージを降りたあと
やるせない気持ちにはならなかった
やるせない気持ちにはならなかったよってこと
- はさみ
- 2018/09/17 (Mon) 05:11:24