読み返した本に
現代は夜の詩が多い
と書かれていた
そうだろうなと思った
1960年ごろの本だった
そうだろうなと思った
だから
おはようと呼びかける朝の詩人は
かろやかに時代を変えてみせたのだと
ああでもまた
夜になってやしませんか
*
読み返した本に
東の国に浮浪者がいて
子供たちだけが彼のことを
王子さまと呼んでいたとあった
彼は少しだけ未来を生きていたと
そのため冷たくなってから
街の人々に発見されたのだと
やっと追いつかれたのだと
彼のせりふはひとつもない
私はそれを
筆者の卑怯だと思った
ありもしない優しさへの
こころからの捏造だと
*
読み返した本に
そらの意味は国によって
言語によって違うのだと書いてあった
そうなのだろうと思った
けれど私は
ひとつのそらにあこがれる
山の向こうでは逆風が吹いている
星の名前はどれも
いつか誰かが見た証
- 若原光彦
- 2018/10/20 (Sat) 21:29:04