仕切り直しです:風が強い日
何回でも仕切り直しますよーっみなさん!

  • みうらのばでぃすきー
  • MAIL
  • 2019/01/09 (Wed) 20:16:33
風が強い日
(火のないところに煙をたてる悪いやつはいても)
何もないのに木々が揺れることはない
心がざわざわしているうちに
バス停の看板がぶっ倒れた
いつもなら気の毒に見える桜の枝が
全然違うように見えていた

あり得ないと思っていた
こんな風の強い日に
揺れるほど嬉しいなんてことが

僕の方が舞い上がる
北風にもみくちゃにされながら
頬を上気させて
あの娘が急にくれたキャンディの
猛烈なくすぐったさは絶対
あいつにはわかんない

こわばった体に余計に力が入るわけは
おすそわけできるもんならしてみたいが
画角に収まりきらない熱量のキャンディは
ちっぽけなポケットに

すぐにキャンディになるくせに
今はちっぽけなポケットに
  • はさみ
  • 2019/01/09 (Wed) 23:35:06
風が強い日
乱光がうまい具合にまぶしい。喫茶店映画に使われる白昼のシーンを撮っているさなか、皮質にもたれるさなぎたちが優しく暴徒化し剥がれていく(痛くて、カメラモニターが間欠的に白飛びし続けていて、俳優たちにも照明にも過去が癒着していて、現実を進行していく彼らがめずらしく僕よりも幽霊に見える)頬が雪のような幼子が山頂の写真をにぎっている。僕はもはや青飛びしている映像機器で、この場所をせめて記録しようと試みているのだが僕の入力動作は一帯の現実に指一本も触れないまま、重力の二倍も緩み、沈み込んでしまう。
『校舎から光景を彩りやすい旗が振られていて、ああ今日は休日なのだなとたったそれだけを思う』シーンを繰り返している俳優が、衣服の内側からこっそりとねずみに溶け出していき一匹ずつ退散していくのを見逃すような映画監督ではない、見逃すような現場ではないのだが、(今日だけは全員寝違えているから、確かに寝違えている、Aさんも幸枝もまなぶも全員寝違えてきて、平気な顔で一言も言わないで昼光のなか動いたり立ち止まったりしていて、誰がと言えばきっと僕がおかしいのだろうとやはり思うのだから、僕はあなたに、僕は幸枝さんが好きな幸枝さんがやはり好きでしたと)「幸枝さん、ねずみとして退散しないで」
幸枝さん:「監督、今日は風が強いですね。こんなに清らかでいい日なんて、そうそうないかもしれませんよ。良かった。監督は、かれらのことをなんて呼んでいますか?」
「かれらって、誰のこと」
「清らかになるまで待つなんて、バカげていることだと私は思います。監督が忍んだ苦労を感じながら、あえて言うのです。(監督、)私たち光は、汚濁。あなたがた風は、汚染です。
 だからひろげないでください。逆に、ひろげてください。私は、射し込まず、逆に、射し込もうといつも思っているのですが、たまにかれらが逆流してきて、私たちは風でも光でもないと言うのです。それでは私たちは何なのですか?カメラですか?絵ですか?小窓ですか?しょうがですか?手巻き寿司や、水ですか?氷や、うしですか?
 監督?あなたの意識は、混濁していません。ここは私たちの手元。私たちの現実です。映画を撮り続けなければいけません。
「喫茶店映画を。」
「そう。ここには出窓も水景も無いのにね。それでも伸びをすると晴れた日が見えるよ。今日は風が強いから、全員で、男の人も女の人も監督も、ワンピースをまとってあそこの丘に駆けのぼろう。」
「幸枝さん、喫茶店映画は喫茶店の中で完結するんだよ。」
「映画監督のくせに名前で呼ばないで。珈琲を売りつければ喫茶店だよ。豆をきれいな色の真空パックに詰めて、それを100ふくろ枝に結んで街まで売り歩こうよ。私は汚濁だから。泉に嫌われている保菌者だから、映画のなかで、口を開かずに街に出たい」
「映画をつくることは逆にひろげること?それなら僕は前口上で吹き荒ぼう。光は喫茶店を拡張していくけれど、風は喫茶店の輪郭を厚くしていくだけだから。幸枝さん、または、たどころさん、まなぶ、よしえ。映画をはじめる前のどこか一点から手遅れだったみたいで、僕は生まれたきり沈んだまま入出力に届かない」
むらさき飛びするカメラモニターの中で、甘く微笑む(いちごミルクチョコココア)さん。たどころさん、たびかりさん、窓ガラスの罅割れの、一番凝縮している場所にまぶたを押し当てて採光している照明さん。現実で、足をつけて、喫茶店の中で、拡張する光あふれる日の中で、音を立てて湧く僕の汚染、あなたの汚濁を撮り続けなければいけない。僕はにぎれない手で珈琲カップにふたをする。
  • ふぐ
  • 2019/01/10 (Thu) 05:45:26

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