「愛人二号さん? なんていっちゃ失礼か。でもこっち、一応籍入ってるんで、やっぱそっちが愛人さんっすよね? あと二号さんってのも、以前似たようなひと、きたことあるんで。技の一号、力の二号、なんてね。『ビッグバン★セオリー』のペニーってコがいつの間にかヲタクばなしできるようんなっちゃってて、そんでショック受けるなんてシーンあったようだけど、私もこの七年間で、色々ヘンなこと、憶えさせられちゃったな。技の一号、力の二号って仮面ライダーの最初の二人で、技が本郷猛、力が一文字隼人、だっけ? ねえあんた、憶えてない? でもあんたたちの場合一号のほうは解るんだけど、二号って一体、なんだろね? 力の二号。やだ。妄想がほんと、ヲタク化しちゃってる。ごめんごめん。せめてお線香だけでも? オッケー、そして、妻としてサンキュー。入って入って。今ちょうど午後ティーしてたとこ。お線香だけなんていわない。お茶請けに骨もどうぞ。詰まんないもんですが。それに案外美味しくないしね。お茶に混ぜちゃうってのも一工夫だけど、グラニュー糖みたいに溶けないし。底に茶色く残っちゃってんのも、まず粒が不揃い、おまけに透明感ゼロでほんっと汚ない感じだし。パンのほうは意外にいけてるって思うんだけど、骨のフレーバー、飛んじゃってんだよな。あっ、壺の蓋閉め忘れてた。まだ仏壇買ってきてないから、これをここに、ヨイショッ。さ、お線香どうぞ。ありがとうございました。お茶どうします? えっ? 別に無理して食べてくことないけど。一号さんは真っ蒼んなって飛びだしてっちゃった。高木彬光の推理小説にあったはずだけどな? 毒殺された夫の骨、食べてる妻の話。彼女にもその毒回っちゃって、そんで事件が発覚するってわけ。それ、私が教えてやったんだ。んで実家までその本取りにいって。元々素子ちゃんの『ひとめあなたに…』が二人の話題になってたんだけど、君に食べられるってのも悪くないな、なんてね。どうせただの軽口。まさかほんとに食べられるとはね。はふっ。あの話の場合骨つき肉ってゆうか逆に肉つき骨だったわけだど、まだ食べるとこ、いっぱいだったはずでしょ? 食べ切れたのかな? 確かあと一週間で地球滅んじゃうって設定だったよね? そんでその一週間の最後の思い出争奪戦に突然愛人さん乱入してきちゃって、なんか修羅場んなっちゃって。二人で仲良く食べりゃいいのにね。どうせ一人じゃ食べ切れないんだし。主人公はお裾分けして貰えることになってたわけだけど、あれはちょっと、非常識かな? 骨食べた感じからしてヒトなんてそれほど美味しいもんじゃないし、まして赤の他人の肉、さあどうぞってだされたってね。私だってちょっと、迷惑しちゃうかな? まさに捨てるに捨てられないもんだし、当然残すに残せないし、やっぱ本妻さんと愛人さんとで、ちゃんと責任もって食べてやんなきゃね。ああしてバラしちゃったら。ところであんたたち愛人さんって、一体なん人くらいいたの? 私一生懸命食べてんだけど、中々減らなくて。それに悪いんだけどやっぱ不味いし。そっか。愛人さんたちも横の繋がりなしか。それに連絡網みたいの作んだったら、やっぱそれは、妻である私の務め。どっかに広告でもだそっか。お葬式は内々で済ませました、お別れ会は後日、骨料理パーティつきですって。でも有名人ってわけじゃなかったしな。ブランド肉ってゆうかブランド骨ってわけでもないし。ひと集まんないよね? やっぱコツコツ食べてくっきゃないよって、やだ私、骨々だって。ヲタクだけじゃなくオヤジ・ギャグまで移っちゃった。ところで二号さん。さっきから一口も食べてませんね? お茶だって冷めちゃってるし。別に無理することないってのはほんと。なん度もゆうけど、あんま美味しいもんじゃないしね。えっ? 壺から直に? 生で? いや。もう生ってわけじゃないけど。無理はよそうよ。不味くてもできるだけ美味しく食べてやろうよ。せめてその努力だけはしよう。直はだめだよ直は。悪いけどほんと、食べられたもんじゃないよ。私は三日目で挫折した。濃い味つけで誤魔化すのって、やっぱ邪道だなんて思ってたんだけどさ。あんた得意料理何? スパゲッティ? いいじゃん。ナポリタンだったら確か大好物だったはずだよ。味覚がお子ちゃまだったからね。本人がそれんなっちゃうってのも、悪くないよ。見かけがきっと、パルメザンチーズみたいになるしね。それ作ろうそれ。キッチンも冷蔵庫ん中も、自由に使ってくれちゃっていいから。骨も遠慮なく使っちゃって。でもやっぱ骨だけじゃな。使い勝手悪過ぎるよ。これが素子姫のお話しみたいに肉つき骨だったら。でもあれはあれで大変だったよ、きっと。何しろフルセットついてるわけでしょ? 誰がおでんの最後の玉子、食べるんだ? なんて。でもあの場合の玉子って、ウズラ? あっ、二個ある。一号さん降りたし──」
- 安藤紅一
- 2019/03/20 (Wed) 19:29:37