1.
ハイお口をア〜ンして、と医者に言われ
わたしはすなおに応じ
暗〜ん、と開けたはずだ
漆黒の闇の口を
ぽっかりと
その医者にむけて、大きく広げて、にやりと笑って
診察室にはぽつんとわたし、ひとりきり
2.
夜明け、西の空にかろうじてある鎌の刃先のよう
ほそいほそい三日月を遠い木立に見送って、あぉーぁ、あぁぁぁとあくびして
さて寝にいくか、と振り返れば
東の空をのぼり始めている十三夜ほどの/
夜が明けると、また夜がくる
3.
ソーシャルネットワー、ナンダッケ
クラウド掃除んぐよね、ワーキングよワーキング
つぶやきながら日のあたる縁側で粒あんを咀嚼する人
「つばくらめふたつ はりにいて」
立ち去った燕たちの跡
エンゲージリングは縁の下の暗がり
あるいは屋根の上に
4.
彼女の背後にぴったりと夜がくっついてはなれない
ほら、ほら、月よ、これはあなたの月よ、食べておしまいなさい
彼女の背にぺたりといながら夜は、
奇妙な細長い腕をのばしてのばして月をもぎ取り、彼女の口におしこむ手、
爪、指、管、節々、腕、枯れ枝、軟骨、骨、さあ食べておしまいなさい、噛み砕きなさい、月を月を月を
夜にとりつかれた嘔吐姫
床にはいつくばる嘔吐姫
彼女の長く豊かな髪、着物と帯、投げ出された手足
それらはべたりと床にひろがってゆらゆら、ゆらゆら
揺れるクラゲのよう
5.
鏡の前に立てばふたり
鏡を割れば大勢
それはそれはたくさん
廃道のトンネルで金切り声
それはそれはたくさんの
廃れた王都の石畳
射られた頭、反りかえる顎、ならぶ首
それはもう、それはもう
よみがえる
6.
時間になりました
よろしくおねがいします
初手、お茶
持ち時間を使い切りました
残りありません
十秒……
刻限になりました
よろしゅうおたのみもうします
的はあなた
そちらの扉にはふだ投げの鬼が居ります
お足元は次元の裂け目です
二十秒……
- みずけー
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- 2019/09/09 (Mon) 02:58:31