神は言った。全ての地の表に満ちた人の子よ。
異なる言葉、異なる血、異なる考え、異なる肌、
異なる歳、異なる財、異なる障害、異なるセンシティブなセクシュアリティを持った
あらゆる者どもを一所に集め、また住ませよ。
全地を一つの町とせよ。
全地を一つの平屋一戸建て多世帯住宅にせよ、と。
それまで
棲み分け、食い分け、分け隔てする事で
いさかいを国境いに押し留めていた人々は
垣根を取り払われた一つ屋根の下に暮らすようになった。
扉も襖も戸張も簾も、隠し隔てするものは全て無くなった。
それはさながら灼けた鉄と硫黄を地獄の釜に投げ入れ、さらに塩酸を注ぐが如き行いであった。
当たらずさわらずで凌いできた腫れ物同士が
互に当たり、またさわるようになった。
こうして全地の表は安定状態から相転移しエントロピーは増大した。
その究めて乱雑なる故に、この地はまとめてバベル(みだれ)と呼ばれるようになった。
それを見た神は「よし」と言った。
- まいきー
- 2019/09/16 (Mon) 01:41:17