それを食べるのはいつもわたしだったのでわたしはいとも簡単に太っていった。
太ると足と足が擦れるのが不快なのでぜんぜん歩かなくなった。
筋肉が衰えて支えのなくなった膝は大縄跳びの後ズキズキと痛んだ。
痛い痛いと毎日のように泣いていたのはもう三十年ほど前のわたしだった。
ぶとるよ
父は、ちょっとからかうような軽い気持ちでそれを度々口にしたがそれはもっと違う意味でわたしの耳に響いていて実際はそんなたいして太っていたわけじゃないっていうのに「昔わたしは太っていた」と記憶を上書きしつづけ父を思い出すとき私はわたしになったりワタシになったり私は忙しいんだよ母を思い浮かべるときにはそんなこと決して起こらないのにね。
父が釣ったカワハギが食べたい。
死んだってそこにいるんだよ、
誰かが覚えている限り。
- こうだたけみ
- 2019/10/07 (Mon) 19:24:31