あなたはかぜにゆられる
もりの木の幹であったのよ、と
再生紙で作られた灰色の折り鶴は
渋谷のスクランブル交差点に捨てられ、
雨に濡れた嘴を天に持ち上げた時に言われた気がした
ように、踏みつけられ、
踏みつけた足は新聞紙に包まれた折り紙のような花束を
大事そうに抱えて、
いくつもの改札口を抜けて、
街の中の霊園の墓前に飾るけれど、
そこで祈る意味を忘れてしまっていることに気がついてしまう
隣の墓には、名前の掘られた湯呑みが置かれていて、
苔むした墓石の側面には先祖の名前が並んでいるけど、
空襲で焼かれてしまった一族であるし、
少子化も進んでしまって、
という理由で、ここに出向く人間がどこにもいないのは知っているから、
一本だけ花束から抜き取り、
湯呑みの中に薔薇を生けたっていいじゃないかと、
足跡は考えるけれど、
それは、どこまで流れ着いても、
ようにでしかないのだと、
また、踏みつけた折り鶴に言われてしまう、
折り鶴にも昔骨があったし、
骨は粉々に砕かれて、
技術という釜の中で何度も紙にされて、
真っ赤な薔薇みたいに
赤く染められたのだから、
生きている間に、
渡しておけばよかった
お花を、
死んでから渡されてもしょうがないかもしれないけど、
生きている時にもらって嬉しい花を
あなたに捧げてしまってもいいじゃないか、
と、
見ず知らずの墓石に、一本の折り鶴を
重ねると風が吹いてくる
都会の霊園に薄らと舞う
油の臭いがドブ川から湧き上がってくる
それらを運んでくる
あらゆる交差点が、問いかけてくる問いに押しつぶされて
私もまた、二度とここに帰ることはなくなる、
箒星になる
- たばすこ
- 2020/08/01 (Sat) 00:50:00