いつも通り支度を終えたはずなのに、いつもより少しだけ時間があった朝。
電子書籍を読みながら、借りたまま本棚に置きっぱなしの本のことを忘れているわけじゃないけれど、意識の底に沈めていく。
一つ沈めたら、その一つ分だけ空きができるはずなのに、浮上させるものが見つからない。
文字列を追いながら、今ではない時代に思いを馳せて、知らない場所を生きる。
ほとんど忘れた過去よりも鮮明な世界を生きながら、なのに、何か、引っかかる。
こびりついた何か、知っている臭い、妙な甘さ、本体のない余韻、忘れたはずの記憶の残滓、あるいは、磨き残した食べかすが。
マスクを外してコーヒーを飲もうとする午後にふと、思い出すのかもしれない。
閃きが降るように。
- 白
- 2023/02/27 (Mon) 16:55:37